無職の兄ちゃんとの思い出
無職になって一ヶ月ほど経った。僕は今も実家に寄生しつつ、働かずにぐーたら過ごしている。
お金を節約するため基本的には家に引きこもっているが、たまにおやつを食べたくなったりして最寄りのコンビニに行くことがある(←全然節約できていない)。
僕の家の最寄りのコンビニはファミリーマートなのだが、僕が大学に通っている頃はサークルKだった。大学は実家から遠く、通学に2時間半程度かかるので、帰りが遅くなったときに、よくサークルKで温かい焼き鳥を買い食いしたものだった。最寄りのコンビニに立ち寄る度にそういった思い出がフラッシュバックしてくる。
僕が大学4回生の秋頃のことだ。僕は勉強を全然していなかったため院試にも落ち、ろくに面接対策もできていなかったため内定もなかなか取れず、どん底だった。
研究室でもろくに勉強についていけず、准教授に言われるがまま、なんにも理解しないまま卒論を進めていた。理解が全然できていないため実験にも時間がかかり、その日は終電で実家の最寄り駅に着いた。夕飯をまだ食べておらず、あまりにも腹が空いたためサークルKに寄った。
雑誌を少し立ち読みしていると、声をかけられた。
「おー、ゆうちゃん*1やん!元気にしてるん!?」
声をかけてきたのは僕より一回りほど年上の近所の兄ちゃんだった。おそらく、その頃は34,5歳ぐらいだったと思う。
その兄ちゃんのことは僕も知っていて、「ムラキくん」と呼んでいた。僕が小学生くらいの頃、僕の友人たちにムラキくんが遊戯王カードを見せびらかしてちやほやされていた記憶があった。
僕自身はそんなに話したことはなかったが、ムラキくんは僕の父とも面識があり、たまに父の仕事場で顔を見ることがあった。
ムラキくんの話を聞くと、彼はいま無職らしかった。
「ゆうちゃんのおっちゃんに仕事紹介してもらって働いてたんやけどなー、俺辞めたってん!」
「むちゃくちゃムカついたからなー、(職場の上司を)殴ったったわ!」
武勇伝のように話すムラキくん。
(仕事紹介してもらった人の息子にそれを言っちゃうのやばいだろ)
(けっこういい年齢なのにそんなに簡単に仕事辞めちゃって大丈夫なのか?)
本人はあっけらかんと話していたが、就職が決まっていない自分のことは棚に上げて僕が心配するほどムラキくんは大丈夫じゃなさそうだった。
話すこと数分、そろそろ腹も減ったので話を切り上げて帰ろうと思った。まだ夕飯を食べてないので、そろそろ家に帰ると伝えると、
「じゃあすき家行く?車で連れてったるで!」
とムラキくんが言ってくれた。自転車で行くには遠かったことと、卒論や就活が忙しくあまりバイトができていなかったのでお小遣いに余裕がなく、この申し出をありがたく受けることにした。
すき家に連れてきてもらい、ムラキくんは牛丼の大盛り、僕も牛丼の大盛りを頼んだ。腹が限界まで減っていたため、いつもより美味しく感じた。
連れてきてくれてありがとう。心の中でムラキくんに感謝した。
僕よりも体の大きいムラキくんは先に食べ終わってしまった。僕も早めに食べないとなーと考えていると、ムラキくんは
「じゃあ車で待ってるわ!」
と言い残し、自分の会計だけ済ませて出ていってしまった。
ああ…マジで言葉通り連れてくるだけだったんだ。無職を舐めてた。
一回り年上だからすき家の牛丼ぐらい当然おごってくれるだろうと思いこんでいた僕は、自分の会計を済ませながらそんなことを思った。
そんな僕も当時のムラキくんと同じ無職になってしまった。収入がないため無闇に貯金を切り崩してお金を使うことは憚られるのだが、後輩とご飯を食べる機会ができたときには無理をしてでもおごらなければならない。
当時の自分に言ってやりたい。無職を舐めるな。
*1:僕のこと